
多くの中小企業では資金繰りが困ったときのために定期預金や定期積み金を行っています。しかし我々銀行取引に精通した財務のプロから見るとその行為は非常に危険です。 その理由について簡単に解説しています。
動画は記事にされていないこともお伝えしていますし、3分から5分でまとめていますから、隙間時間で確認できるものとなっています。ぜひ動画もチェックしてみてください。
※動画は記事の中の最下段に張り付けています。
目次
定期預金にはフリーと担保の2つのケースがある。
定期預金も、不動産と同様に融資の担保として銀行に入れることができます。
一方で担保に入れていない預金はフリーの定期預金と言います。
定期預金が担保となっているのか、担保となっていないのか把握していない会社は意外と多いのです。ちなみに定期預金を担保に入れると、その通帳や証書の現物は銀行に保管するため、企業の手元にないことになります。
通帳や証書が手元になければ、銀行が保管している可能性があり、それであれば担保となっている可能性が高いです(銀行の貸金庫に入れている場合は違います)。
担保定期預金の場合
定期預金が担保になっているのであれば、銀行はその定期預金を解約してそのまま融資の返済の一部に充てない限り、担保のみを解除してくれることはまずありません。
その定期預金は担保として入れているため、企業としては死に金です。その定期預金を解約して融資をその分、返済し、融資利息負担を減らすことを第一に考えるべきです。
しかし銀行は、そうされてしまうと利息収入が大きく減ることになり、抵抗してくるでしょう。
銀行はいろいろ理由を付けて抵抗してくるでしょうが、結局のところ、「利息収入が大きく減る」それしかないのです。
銀行としては、企業からどれだけ収益を得られているか1社ごとに算出しています。
銀行として大きな収益が得られる企業は、多少業績が悪化しても融資審査は通しやすいということはありますが、企業はそのことを頭に入れつつも、担保定期預金を解約して融資の返済の一部に充てる交渉をしていきます。
なお、その銀行から新たな融資が受けられていないのであれば、融資審査を通しやすいというメリットは全く活かされていないことになりますので、特に担保定期預金を解約する交渉を行うべきです。
フリー定期預金の場合
担保に入っていないフリーの定期預金であれば、企業はいつでも解約できます。定期預金は原則、満期日前に解約できないことになっていますが、実務では、中途解約はよく行われていることです。
ただし定期預金は、実際に解約を申し込むと、銀行から引き止められるのが通常です。
数十万円ならともかく、100万円以上の定期預金は、その銀行に融資がなくても「何に使われてますか?」と聞かれます。
銀行では、一定金額以上の定期預金の解約は、お客様にその理由を聞くマニュアルがあるからです。
何に使おうとほっといてくれ!
と思いますが、銀行にとって定期預金は普通預金や当座預金と違って、満期日までは原則解約ないことから、その預金を銀行の方で融資や国債投資などを行う資金として、長期間で運用しやすいものであり、なるべく解約してほしくないものです。そして満期日が来ても継続してほしいものです。
融資を受けていない企業や個人においても「何に使われますか?」と聞かれるぐらいですから、融資を受けている企業がその銀行に預けている定期預金を解約する時は、銀行から大きな抵抗に合います。
銀行が定期預金の解約に抵抗するのは、2つの理由がある。
一つは、融資の稟議の時に、その定期預金の存在を、審査を通すために材料にしていることが多いからです。
銀行は、融資以外でも銀行との取引実績が多い企業に対し、その企業と付き合いを深めるメリットが大きいことから、融資は出しやすいものです。
定期預金を作っていることは、銀行との取引実績の一つと銀行は考えます。そして融資の稟議書にも、その取引実績を書き、融資審査を通す材料の一つとするのです。
もう一つの理由は、定期預金を解約すれば、その分、銀行は保全がなくなることです。
銀行は稟議書に
「当社は、取引実績面ではフリー定期預金が3,000万円あり、またその定期預金は、本件1億円の融資実行にあたって保全の一つと考えることができる。」
というように書きます。
これが融資審査を通す材料の一つとなったのであり、定期預金を解約するとその前提が大きく崩れてしまうから、定期預金の解約に抵抗するのです。
元・銀行マンが証言した定期預金解約引き留めの現場
私の知る元・銀行員の話では、1億円を融資したある企業に対し、定期預金を5,000万円作ってもらっていたそうです。
しかしその企業は、3ヶ月後、定期預金を解約したいと銀行の支店にやってきました。
その元・銀行員はそれを引き留めようと、後日訪問しますと言ってその場はおさめ、後日、上司とともに定期預金の解約を引き留める交渉のためにその企業に訪問しました。
しかし企業から粘られた末、結局その定期預金は解約されてしまい、そして半年後、その企業は倒産し、銀行は貸倒れを出してしまいました。
このように、融資を受けている企業が定期預金を解約するのは、資金繰りが厳しくなっていることが理由であることが多く、それを分かっている銀行は、なんとしてでも定期預金の解約を引き留めたいのです。
しかし担保で入っているものでなければ、企業は定期預金を解約するのは自由です。
「定期預金が解約できなければ従業員に給与が払えない。」
「定期預金が解約できなければ支払手形の決算ができない。」
「この定期預金は担保ではないので解約するのは自由ではないですか。」
と言われれば、銀行は折れるしかないでしょう。
ただし、自分の会社の資金繰りが厳しい、業績が悪化していることは、なるべく銀行には思われないようにしたいものです。
融資を受けている銀行では、定期預金は作るべきではないし、もし作っていても粘り強い交渉の末、解約できるものです。
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