
銀行用語で「資金トレース」という言葉があります。トレースを英語にすると「trace」。「写す」「跡」などの意味があります。
銀行用語での資金トレースとは、融資で出た資金の流れを追い、融資申込み時の資金の使い道(これを資金使途と言います)どおりに資金が使われているかを確認するとともに、出した資金がなるべく自分の銀行内にとどまるように銀行が企業へ交渉することを言います。
資金トレースの目的は次の2つがあります。
1.資金使途どおり使われているかを確認
2.自分の銀行内にとどまるように銀行が企業へ交渉する
それぞれを見てみましょう。
目次
資金使途どおり使われているかを確認
銀行は、何に使われるか分からない融資の申込みより、何に使うか明確な融資の方が、安心して出すことができるものです。なぜなら、何に使われるか明確な融資は、返済の可能性が高まるからです。
資金使途が明確でなければ、例えば社長の遊興費や、別会社への転貸などに使われてしまい、そのような使い方をされてしまうと、返済の可能性が低くなります。資金使途を明確にするほど、融資審査は有利になります。
融資を申込む際、銀行に資金使途を聞かれ「運転資金として使いたい。」という伝え方でもよいですが、なぜ運転資金として融資が今、必要なのか、その理由も含めて銀行に伝えると、それだけ審査には有利となるでしょう。
資金使途がより明確な場合。例えば設備資金、納税資金、賞与資金、建設業やシステム開発業などで支払いと入金のズレをつなぐつなぎ資金、など明確な理由を伝えられれば、銀行は納得しやすく、融資は出しやすくなります。しかし、このような明確な資金使途のもと融資で出た資金が、資金使途どおりに使われなければ、銀行はその融資の回収可能性が低くなってしまいます。
そのため、融資で出た資金が、融資申込み時の資金使途どおりに使われたか、銀行はチェックします。これが資金トレースの意味の一つです。設備資金であれば、その設備の現物を銀行が見て、また領収書を銀行は受領します。納税資金であれば融資を出した直後に納税が行われます。
そして資金使途どおりに使われていないことが判明した場合、資金使途違反として銀行はその企業へは二度と融資は出さず、一方で出した融資は即返済を求められることでしょう。資金使途違反は、銀行にとって重大な問題なのです。
自行内にとどまるように銀行が企業へ交渉する
資金トレースの目的の2つ目は、融資で出した資金が、自分の銀行内にとどまるように銀行が企業へ交渉することです。
企業は融資を受けたらその資金を外部に支払いますが、その支払先の預金口座も同じ銀行であったら、銀行にとって預金の増加となります。そして銀行は、その預金の資金を再び別の会社への融資に使うことができます。
銀行は資金を他の銀行に流出させることなく、融資残高と預金残高を積み上げていくことができることになるのです。
銀行は融資を行った際、その企業の支払先にも同じ銀行の預金口座があったら、そこに振込みしてもらうよう、融資を受けた企業にお願いします。また同じ銀行の預金口座がない場合、優秀な銀行員は、支払先の企業を紹介してくれるよう、融資を受けた企業にお願いすることでしょう。
また賞与資金の融資であったら、その企業の従業員にも預金口座を開設してもらい、同じ銀行に振り込んでもらうように銀行は企業にお願いします。
広い意味での資金トレース
なおこのような融資実行時でなくても、銀行としては、企業に次のことを行ってもらうことにより、その預金口座の残高を大きくすることができます。
・自分の銀行を、事業で発生した売掛金の振込口座として指定してもらう。
・受取手形がある場合、手形の取立は自分の銀行で行ってもらう。
・自動集金サービスを自分の銀行で使ってもらう。
また、自分の銀行で次の取引も行ってもらえば、企業はその銀行に預金を集中させることが期待できるため、預金口座の残高は大きくなります。
・総合振込・給与振込
・手形・小切手の振出
・口座振替
銀行としては、このような取引を自分の銀行で行ってもらうようにすれば、預金口座の残高を大きくすることはもちろん、各種手数料もいただけるようになり、その企業と付き合うメリットは向上します。
資金トレースの考え方を理解して銀行と深く付き合う
以上述べたように、資金トレースは銀行にとって、
1.資金使途違反がないかの確認
2.支払先も自分の銀行の預金口座にしてもらうことにより銀行は大きなメリットがある
という意味があることが分かりました。
支払先も同じ銀行の預金口座にすることが可能であれば、同じ銀行に振込みを行い、それを銀行にアピールすることによって、銀行に喜ばれることでしょう。
あなたの会社にとって、支払先の預金口座は同じ銀行であろうと、別の銀行であろうと、かまわないでしょう。それであれば同じ銀行に振込みを行い、そしてそれを銀行にアピールすることにより、銀行からは、この会社に融資を行うとメリットが大きい、と思わせることができるのです。
なお広い意味での資金トレースである、同じ銀行に多くの取引を集めることは、その銀行と将来、うまくいかないことがあった場合に、動きづらくなるというデメリットもあります。例えばその銀行への返済ができなくなって、銀行が預金ロックのような強硬策をとってきた時に、その銀行に売掛金が入金されてしまえば、その資金は使えないことになります。
しかし取引を集約しておくことは、その銀行はあなたの会社と付き合うメリットを感じますので、それだけ銀行としては融資を行うメリットも大きくなります。要は、それぞれの銀行と、あなたの会社はどのようなスタンスで付き合うか、その時その時の状況を見て、臨機応変に考えていくのが重要、ということです。