
今回から何回かのパートに分けて銀行の格付けについてお伝えしていきます。
巷には、決算書の勘定科目を移動させれば格付けのランクが上がるといったデマが横行していますが、果たしてそれが本当なのか?
銀行の格付けが融資の可否を決めるのか?
といった部分についてお伝えしていきます。
銀行格付けの本質とは!?
「銀行の格付け」と言うと、融資を受ける時に融資の可否を決めるものであるというイメージが強いと思います。
顧問先企業は、自分たちがどこのランクに属しているのかを気にしており、融資が受けられるかどうかの問題のみで捉えているのではないでしょうか。
しかし、一般的に言われているこの銀行格付けのことを、銀行では「自己査定」あるいは「資産査定」と呼びます。
銀行では「格付け」というと、日本スタンダード&プアーズや日本格付け研究所等の格付け機関から評価されるものであり、株や債券、社債を購入するときの目安となる格付けをイメージしています。
よくシングルB、トリプルA、ダブルAと呼ばれているものです。
自分たちの銀行が格付け機関からどのように評価されているのか、という部分でも気にしている部分です。
目次
銀行は預かった決算書をどのように精査するのか?
銀行が自己査定を行うとき、決算書のすべての資産の勘定科目を精査します。
貸借対照表においては、現金/預金、売掛金、在庫など、簿価と時価それぞれで捉えなければならないものが混在しています。
現金/預金は時価。未回収の売掛金は時価から値引きしなければなりませんが売掛金は時価に近いものです。
在庫も時価に近いですが、過剰在庫を抱えてしまった場合、商品や製品が簿価で売却できるかというと、
なかなか売却できないのが現状ですので、その部分も加味しなければなりません。
減価償却も同様です。例えば、高級外車を購入したとします。簿価で3000万円であったものが、5,6年経過し償却残高が1円になったとします。
しかし、使用者がしっかりメンテナンスをし、かつ限定車で市場価格が高額だった場合、リセールバリューが中古車市場の価格として存在します。
そのような自動車を売却したら、逆に含み益が出る可能性があります。このことからも分かるように、資産には簿価と時価が重なって存在しています。これをほぼ時価に近い形で引き直します。
会社の持つ投資有価証券や土地、これらも時価に再評価します。
そして例えば、実態で修正した資産の金額が、1億円程度マイナスになるという場合、それと同額を純資産から差し引くのが自己査定と呼ばれている銀行の格付けです。
銀行が決算書をお預かりすると、既存先、新規先問わずまず最初に決算書の貸借対照表を開け、純資産の部の合計を見ます。表面で1円でもマイナスであれば、「お金は貸せない」と考えるわけです。
表面で1円でも債務超過であれば、さらに実態を細かく精査した場合さらにマイナスになっているかもしれないと考えます。
既存の融資先は3,4,5年と年数が長ければ長いほど、過年度の決算書を銀行に財務登録しているため、以前の決算書も履歴として残っています。
債務超過の状態が2年連続で続いている場合、銀行はその時点で新規融資はしなくていいようなイメージを持ちます。
つまり、悪いイメージを持たれてしまうわけです。
粉飾を前提に決算書を精査している!?
銀行員の感覚からすると、決算書の3割くらいは粉飾されている可能性があると考えています。その代表的な勘定科目は、第一が売掛金、第二が受取手形、第三が在庫です。
在庫の中でも、製品・商品だけではなく、半製品、原材料、仕掛品まで見ているのです。
そこまでは見ていないだろうと考えがちですが、実は見ているのです。
在庫の業界平均値と比較して、どのくらいの在庫が存在しているかをチェックしています。
銀行が嫌う勘定科目とは!?
そして銀行が嫌うのが貸付金、仮払金、貸付に対する未収入金です。
これらは本当に非常に嫌がる部分であるため、必ず見ています。
加えて減価償却。減価償却は税務的には本来任意ですが、銀行のルールではすべて法廷で減価償却をしたものとして別表16をチェックします。
減価償却の未償却残高がどれくらいあるのかをチェックします。
優秀な銀行ほど、決算書の中身を十分に精査します。
すなわち、規模が大きく優秀な銀行ほど、決算書は原本しか預かりません。
規模が小さい金融機関ほど、控えを預かることがあります。
さらに、勘定科目明細を提出したくないと企業側が言うと、それを許してくれる金融機関もあります。そうした金融機関は概ね制度の低いさていしかできていません。
なぜならば、別表は税務会計の肝であり、銀行員は税務会計や財務会計、管理会計は何となくしかわかりませんが、彼らはお金を貸すことを生業としているため、その業務の一環として財務分析で税務分析に触れているだけだと考えられます。
すなわち、自己査定が十分に行われていないがために、顧問先が損をする可能性が高くなるケースが起こりうるということです。
例えば、別表7では、繰越欠損金がいつまで続くのかをチェックします。
理由としては繰越欠損金が残っている場合、直近で債務超過になっておらず、字引後当期純利益が出ていても会社は完調でないと考えられるからです。
例えるとすれば、インフルエンザにかかり、命には別条ないが基礎体力が戻っていない、そんな状態と言えます。
銀行側は注意事項とみなすため、これだけでランクを下げられる可能性もあるのです。
管理会計のあるべき姿とは・・・
よく税理士の先生方が、月次監査の際、「記帳業務以外にはなかなか手が回らない。」
ということを耳にします。
しかし、最終的なゴールはお客様のところへ訪問した際、税務会計、財務会計の見地に加えて管理会計の見地からお客様の決算書を精査し、「健康診断」を行うことです。
これこそが銀行の格付けの視点であると言えるのです。
そのなかで経営計画の策定をする、月次の経理体制の見直しをしていく、翌月の10日くらいまでには試算表ができる体制をつくる。
そして、毎月の監査時には前月の振り返りを遅滞なく行い、損益の振り返りを行う。
さらに欲を言えば、資金繰り支援の方法を担当職員の方が身に付けていただき、資金状態の振り返りをしていくこともできればなお良いと思います。
そうすれば顧問先の企業防衛にもつながり、継続的な収益貢献にもなるのではないのでしょうか。
会社の健康状態を一番よく表してくれるもの。それが銀行格付けなのです。